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加湿

 冬になると日本の太平洋側では激しく湿度が下がります。燃料を燃やす開放型の暖房器具ならばよいのですが、強制給排気式や電気式の暖房器具では、室内の湿度が20%というのもめずらしくありません。湿度が下がると体感温度が下がるため、暖房を強くしがちで、光熱費もかかるようになります。お肌もかさかさになって、敏感な人はかゆくてたまらなくなります。ウイルスも感染能力を保ったまま室内を漂うようになります。というわけで、加湿器にご登場願うことになります。ところで、部屋の湿度を上げるためには、どれくらいの水が必要で、どれくらいのエネルギーが必要なのでしょうか? ちなみに、このページで必要な知識は中学生レベルのはずです(と煽っておく)。さあ、考えてみましょう。

 まず、必要な水ですが、たとえば、室温摂氏20度(以下、摂氏は略します)の場合、飽和水蒸気量は1m3あたり17.3gです。つまり、1m3の空気の湿度を10%上げるのに、1.73gの水が必要です。加湿しなければいけない空間の体積を求めれば、ここから比較的簡単に必要な水の量が分かりますね。体積は床面積に天井の高さをかければ求まります。床面積は設計図から読み取れます。我が家の場合リビング階段なので、リビング・ダイニング・階段・2Fホールが全部一体の空間になっていて、概ね37m2。天井高さは2.5mなので、体積は約92.5m3です。本当は台所もつながっていますが、オープンキッチンではないのでとりあえず計算に入れないことにします。これにさっきの数字をかけると、92.5×1.73=160gの水が必要になります。意外に少ないですね。

 例えば床暖房の場合、これだけの水を床に撒いておけば、そのうち勝手に蒸発して、湿度が10%上がることになります。もし、160gの水=160cm3の水を、1m四方=10000cm2の領域に撒くと、160÷10000=0.016cm=0.16mmになります。ちょっとびしょびしょの雑巾で床を拭けばこれくらは達成できそうですね。

 普通に加湿器で加湿する場合、どれくらいのエネルギーが必要なのでしょうか? 液体が蒸発するためには「気化熱」と呼ばれる熱量が必要です。例えば、水の場合、1g(約1cm3)あたり1度上げるのに約1cal必要なわけですが、100度になった瞬間に全部水が蒸発するかというとそんなことはなくて、100度になった上でさらに1gあたり540calというエネルギーを与えることでやっと蒸発します。1度上げるために必要なエネルギーの540倍です。沸騰させるより蒸発させる方が大変だということが分かります。沸騰していない場合でも水は少しずつ蒸発しますが、温度によって気化熱は異なり、温度が下がると蒸発に必要な熱量は増える傾向にありますが、オーダーは概ねこんなもんです。

 これを電力であらわすとどうなるでしょうか? 熱の仕事当量定数を使えばJに直せますが、面倒なのでここではそのままSI単位系の値を使います(ここらへんは高校の知識だったかもしれない。まあでも、Q=0.24Pt { Qは[cal]、Pは[W]、tは[秒] }という式を使えば以下全部計算できる)。水の気化熱は100度において2,250kJ/kgです。1gあたりだと2,250Jです。まだ電力が出てきませんが、1Wは1J/秒なので、JはそのままW秒にすることができて、2250W秒です。もし、1000Wの電力を与えると、1gの水は2250[W秒]/1000[W]=2.25[秒]で蒸発します。逆に、1秒間で蒸発する水の量は1[g]/2.25[秒]=0.444[g/秒]です。1分間では26.6gになります。

 したがって、我が家のLDの湿度を10%上げるのに必要な電力量は160[g]×2250[W秒]=360000[W秒]=100[Wh](WhはWatt Hour、つまりワット時のこと)で、1000Wの電熱器みたいなのを使えば(効率100%ならば)100[Wh]/1000[W]=0.1[時間]、つまり6分かかることになります。

 さらに水をお湯にするために必要な時間を加える必要があります。1kgの水を1度(=1K・・・ケルビン)上げるのに必要なエネルギーは、18度において4.2[kJ/kg・K]です。水1gを1度上げるのに使われる熱量が1calなので、これをSI単位系に直しただけという話もあります(1[cal/g・K]=4.2[J/g・K]=4.2[kJ/kg・K])。温度が変わるとこの値は若干変わりますが、水が液体である間はそんなに大きくは変わりません。冬場は気温が0度近いため、水道水も0度に近い温度になっています。0度の水(ただし液体)を沸騰させるのに必要なエネルギーは、4.2[kJ/kg・K]×100[K]=420[kJ/kg] です。100gならば、420[kJ/kg]×0.1[kg]=42[kJ]=42000[W秒] です。もし、1000Wの電熱器を使うと、42000[W秒]÷1000[W]=42[秒]で沸騰する計算になります。意外に早く沸くことが分かります。160gならば420[kJ/kg]×0.16[kg]=67.2[kJ]=67200[W秒]で、67.2秒で沸く計算になります。

 この二つの結果を足すと、冷水160gを沸騰させ、すべて蒸発させて我が家のLDの湿度を10%上げるに必要な時間は、1000Wの電熱器を使った場合で7分ちょっとだ、ということが分かります(へぇ〜)。必要なエネルギー量は360[kW秒]+67.2[kW秒]=427.2[kW秒]になります。

 加湿器には加熱せずに送風して水を蒸発させるものもあります。この場合、沸騰するのに必要なエネルギーは必要ありませんし、蒸発させる際にも加熱していませんからなんかすごくお得のように感じます。しかし、沸騰させて蒸発した場合は100度の水蒸気が回りの空気を暖めるため、暖房に必要なエネルギーが減ります。送風で気化させた場合は気化熱に相当する分だけ室温が下がるため、暖房に必要なエネルギーは逆に増えます。「省エネです」とうたっている加湿器を時々見かけますが、暖房まで含めたトータルではトントンのはずです。世の中そういうもんです。

実例

 我が家にはちびもず用に60度保温にしてあるポットがあります。このポットは一度沸かして(カルキ抜き)から自然冷却で60度まで温度を下げるので、60度になるまでに時間がかかります。夜寝る前に水を入れて、朝までに60度になっている、という運用をしています。容量は2.2Lですが、ちびもずも離乳食が進んでミルクの量がだいぶ減ったので、実際に使う量は500cc内外です。一応、余裕を持って1.5Lほど沸かしています。

 このポットで目いっぱい水を入れ、2.2Lお湯を沸かすと、700ccは不要になります。この分をやかんに入れ、台所ではなくダイニングで沸騰させます。ダイニングにガスコンロはありませんから、ホットプレートを使います。IH式のやつです。先ほどからエネルギーを「電気」に換算しているのはこういう事情によります。このホットプレート、最大で1400Wの出力がありますが、同じコンセントで940Wのトースターも使うため、同時に使うとブレーカーが飛びます。便利なことに出力を1000Wに制限するスイッチがついているので、1000Wで使います。先ほどの説明で1000Wにこだわった理由もここにあります(笑)。

 IHですから、やかんの底が直接発熱します。実際にお湯を沸騰させ、そのまま1分放っておくと、やかん全体は24g軽くなりました。先ほどの結果と比較すると恐ろしい効率で温まっていることが分かります。電熱式では多分こうはいかないでしょう。60度700gの水が沸くまでにかかる時間は4.2[kJ/kg・K]×(100[度]-60[度])×0.7[kg]=117.6[kJ]=117.6[kW秒]です。ホットプレートは1000Wなので117.6秒=約2分でお湯は沸騰します(実際に沸騰する。びっくりした)。その後、12分放っておくと320gの水が蒸発して、湿度は20%上がります。水は380g残る訳ですが、ちょうと紅茶2人分なので、紅茶を入れて朝食の時に飲みます(笑)。紅茶は沸騰した直後、つまり、沸かし始めて2分後に入れられます。こうすると猫舌のボトルネック短縮にも有利になります。

 電気を使う利点はいくつかあります。まず、持ち運びが簡単ですので、どこでも使えます。ガスと違って室内に二酸化炭素を出しませんから、換気が不要で、室温・湿度を保つためにも有利です。タイマーを使えることが多いのも利点です。

 実際には700ccのお湯を15分タイマーで沸かしつづけます。ティーカップは小さめなので、紅茶を作っても空焚きになることはありません。湿度は20%上昇するはずですが、実際には壁から何からありとあらゆるものが水分の吸収・放出にかかわるため、そんなには上昇しません。15分タイマーのあとは加湿器で加湿します。去年はリビングで動かしていましたが、今年はちびもずが動き回るようになったので、リビングでは動かせません。リビング階段なのを利用して、2Fホールで動かしています。2Fの部屋は当然全部閉め切ります。

 余談ですが、「加熱式の加湿器はやけどが心配なので子供の手の届かないところに」という人がいますが、実際には加熱式ではない加湿器も子供の手の届くところには置けません。やけどはしませんが、ひっくり返せば水浸しになるのは間違いないですし、マグキャッチコンセント(意外に盲点)をしゃぶれば当然感電しますので。

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