home / stars / h-alpha ソニーα700でHα線は写るか?

 天体の中にはHα線という光を強く出しているものがあります。 Hα線は波長約656nm(ナノメートル、ミリメートルに直すと0.000656mm)の赤い光です。 この光は水素原子のエネルギー準位が(ごにょごにょ)・・・とにかく、水素原子がエネルギーを受けた後に、そのエネルギーを放出したときに出てくる光(の一種)です。 そういう光なので、考えられる状況としては水素を主体とした星雲の中心に恒星があるとかですかね。 水素は他の光も出しますし、星雲が純粋に水素だけでできているということもないので、Hα線だけを放っているわけではありません。 たまに「赤外線」と書いている人がいますが、人間は750nmくらいまで見えるらしいので、赤外線ではありません。 赤く見えます。

 一方、普通のカラーカメラは人間の目に見える像をなるべく忠実に再現するように作られています。 デジタルカメラに使われている撮像素子は赤外域にも感度があるため、撮像素子の直前にフィルターを入れて赤外域をカットしています。 カットといっても意外とダラダラとした特性らしく、Hαもある程度は削られてしまうらしいです。 これは機種によって差があり、Hα線の透過率を上げた機種を出しているメーカーもあります。 本格的にやる人はフィルターを外す改造をしたり、白黒のカメラで撮影したり。

 撮影するときはHαだけを通す、半値幅10nm程度のフィルターを付けます。 そんなに高い値段ではありませんが、写らないかもしれないのに買うほどは安くありません。 太陽もHα線を通すフィルターを使いますが、こちらは半値幅1Åくらいのものを使うので、nmに直すと0.1nmで、2ケタ違います。 値段も一桁違います。

 とりあえず656nm以下の光が写るということが分かればいいので、富士フィルムから出ているSC-64というフィルターを使って試してみることにします。 これなら10cm角でも1000円ちょっとで買えます。 SCは「シャープカット」、64は「640nmで50%」という意味で、640nm前後から短波長側(黄色・緑側)を比較的シャープにカットしてくれます。 どのくらいシャープかは富士フィルムハンドブックのページにある冊子「富士フィルム光学フィルター」に載っています。 656nmでは75%くらい、610nmでほぼ0になります。

 このフィルタはゼラチンフィルタタイプ(トリアセテート製ですが)、つまり、ペラペラの色シートなので、使うときは何かに入れないといけません。 が、とりあえず写るか写らないか分かればいいので、レンズの前に適当にかざして撮ることにします。 中央付近の320×240を切り抜いてみました。

ノーフィルター(1/200秒)

SC-64(1/45秒)
α700・タムロンA09(28-75mm F2.8)F5.6・ISO100

赤のヒストグラムが同じくらいになるようにすると露出は4倍になりましたが、とりあえず写ってます。 でも、なんかポヤポヤな気がします。 分かりやすいように両者のRプレーンだけを抜き出してみます。

ノーフィルターのRプレーン

SC-64のRプレーン

やっぱりポヤポヤです。

 理由はあるにはあります。 α700も含め、現在のカラーカメラはたいていひとつの撮像素子でRGB全プレーンを撮影しています。 素子の深さ方向にRGBと素子を重ねているものもありますが少数派で、2ピクセル×2ピクセルにRGBのフィルターをかぶせてそれぞれのRGB出力としているのが普通です(そうじゃないフィルタ配列もあります)。 2×2=4→RGBなのでひとつ余りますが、Gを2つにするのが普通で、RとBは4ピクセルのうち1ピクセルずつしかありません。 つまり、赤だけ抜き出せば縦横1/2ずつしか解像度がないのです。 RGB全部に光が当たっている場合、他の色の画素から予測して解像度を倍にできますが、フィルターをかけてしまうとそれができません。

 でも、それ以上にポヤポヤな気もします。両方を半分のサイズにしてみます。

ノーフィルターのRプレーン

SC-64のRプレーン

やっぱり解像度を1/2にした以上にポヤポヤです。 余計なことをせずに撮像素子のR画素だけを抜き出せれば・・・。

 現像ソフトでできそうですが、Sony標準の現像ソフトではできません。 有償の現像ソフトでできるかどうかは知りませんが、無償で探してみると、dcraw(http://www.cybercom.net/~dcoffin/dcraw/)というのが見つかりました。 ただしじゃじゃ馬です。 コマンドライン版です。 しかもバイナリではなくソースで配布されていて、自分でコンパイルする必要があります(簡単ですが)。

 マニュアルを見ると「-d Show the raw data as a grayscale image with no interpolation. Good for photographing black-and-white documents.」とあるので、これを使えば生のデータが取れそうです。 実際にやってみたのがこれ。

 見事に1/4しかデータがありません。 これをうまくデータがあるところを狙って縦横1/2縮小してみると、

ノーフィルターのRプレーン

SC-64のRプレーン

SC-64・dcraw -d

ノーフィルターと遜色のない画像が得られました。 ヒストグラムを見るとスケーリングとガンマカーブだけはかかっているようです。 -K オプションを使うとダークフレームを引くことも可能です。

home / stars / h-alpha 実際にフィルタを使う

 写りそうなのが分かったので、フィルタを買ってきました。 今回使ったフィルタはIDASのLPS-V4。 このフィルタは主に星雲を見る、あるいは撮影するためのフィルタで、OIII・Hβといった青緑色の光と、Hα線を通すようになっています。 Hαは640〜670nmくらいを通すようになっていて、この上からSC-64をかぶせれば、半値幅20〜25nmのHαフィルタになります。 まぁ、かぶせなくても赤画素に入る光はほとんど同じだと思いますが。

 まずノーフィルタ。
α700・FC-76(D=76mm f=600mm F7.9)・1/60秒・ISO100

庭の景色を適当に。 カメラ付属の現像ソフトで一発出力して、GIMPで1/8に縮小。 ノートリミングです。 全然関係のない話ですが、右下の赤枠の部分にアリがいます。 この部分をdot by dotで抜き出すと、

笑っちゃう解像度です。 APSサイズとはいえ、写野の端のほうなのに。 1986年の望遠鏡ですよ? 若干フレアがあるような気もします(紫外線領域のハロかもしれませんし、レンズの汚れのせいもあるかもしれません、というか露出オーバー気味か?)が、まぁ、一発出力なので、トーンカーブをいじればもっと落ち着いた絵にはなります。

 次にLPS-V4を付けてみます。 ドローチューブから接眼アダプター接続環をはずすと、BORGの7911がねじ込めます。 これでBORGのM57/60ネジになります。 今回は直接焦点でかなり至近距離にピントを合わせているので、さらに7602・7603で60mm延長して、7522です。 通常は7602(20mm)だけでピントが合います。

 分かりやすいようにネジを緩めて品番をこちらに向けています。 この7522が便利で、この写真で左(対物側)の外側がBORGのM57オスネジ、内側がM52フィルタネジ、右(接眼側)の外側がM42Tリングオスネジ、内側がM36.4メスネジになっていて、いろいろなものを接続できます。 FC-76に標準で付いてくる24.5アイピースアダプタも付きます(M36.4)。 ビクセンのNSTアダプター36.4DX(今は43DXしか売ってませんが)も付きます(M36.4)。 Tリングも接続できます(M42)。

 その後ろに7839 M42ヘリコイドTを付け、αのマウントアダプタをつなげます。 ヘリコイドはいろいろありますが、このヘリコイドが安くて、薄くて、Tリングネジになっているので、あちこちに付けられて便利です。 M42のヘリコイドには「M42ヘリコイドシステム」のヘリコイド群もありますが、こちらはM42P1(TリングはM42P0.75)なので、Tリングとは接続できません。 Tリングと直接接続できるヘリコイドは7839だけだと思います。 目盛りが付いてないので、シールになっているプリンタ用紙に目盛りを印刷して貼り付けています。 一応バーニヤも付いていますが、ほとんど使ってません。 マウントアダプタは相当昔に買ったものです(なので実はソニーじゃなくてMINOLTAと書いてあります)。
部品名メーカー品番規格
ドローチューブタカハシFC-76M56
M56→M57/60ADBORG7911M56 → M60/M57
M57/60延長筒SBORG7602M57 → M60/M57
M57/60延長筒MBORG7603M57 → M60/M57
M57→M36.4ADBORG7522M57/M52 → M42P0.75/M36.4
M42ヘリコイドTBORG7839M42P0.75 → M42P0.75
マウントアダプタVixenM42P0.75 → ソニーαマウント

 この構成だとカメラを回転できない(構図を変えられない)ので、鏡筒バンドを緩めて鏡筒ごと回転させています。 今まではVixenのNSTアダプターを使っていたのでそれで回転させていたのですが、このアダプターに付くフィルタはM40.5だったりします。 回転装置欲しいなぁ。 タカハシ純正の回転装置にも52mmのフィルタが付く、みたいです。

 IDASのフィルタにはフィルタ径がいくつかありますが、持っているミノルタ50mm F1.4がフィルタ径49mmなので、52mmを選びました(現行のソニー50mm F1.4は55mm。49mmなのは50mm F1.8)。 これを7522の対物側の内側にねじ込みます。 50mm F1.4を使うときはステップアップリングを併用します。 実際に撮ってみるとこんな感じ。
α700・FC-76(D=76mm f=600mm F7.9)・LPS-V4・1/15秒・ISO100

RAWで撮って、付属の現像ソフトで一発出力。 かなり弱いですがHα領域も一応写っています。 トーンカーブいじると、

使っている波長域がかなり少ないので、見た目はかなり変わりますが、一応バランスがとれました。 ためしにSC-64をかぶせて、dcraw -d の結果からR画素だけを抜き出すとこう。
α700・FC-76(D=76mm f=600mm F7.9)・LPS-V4+SC-64・1/15秒・ISO100

 きちんと写っています。 dcraw -d の出た目ですが、ちょっとオーバー気味です。 dcraw -D のデータを見ると、元のデータがサチっているわけではなさそうなので、最大値・最小値を探って、調整してみます。

$ dcraw -D -4 -c DSC03812.ARW | \
> convert -depth 16 -crop 4271x2847+0+0 -filter point -resize 50% -format pgm - - | \
> pamsumm -min
the maximum of all samples is 130

$ dcraw -D -4 -c DSC03812.ARW | \
> convert -depth 16 -crop 4271x2847+0+0 -filter point -resize 50% -format pgm - - | \
> pamsumm -max
the maximum of all samples is 435

 -Dはスケーリング・補間なしの白黒出力、-4は16ビット・ホワイトバランス・ガンマ固定で出力、-cは標準出力へ出力、です。

 convertはImageMagickのコマンドです。 Windowsの場合、Cygwinでパスを調整しないとFAT→NTFS変換プログラムが立ち上がるので注意。 -depth 16 は16ビット深度の指定、-crop はクロッピングで、画像の上下左右を1ピクセルずつ削ると同時に、オフセットを指定しています。 こうしておくと、あとでresizeするときに、内部で処理している向きがどうであっても必ず端から拾われます。 オフセットで取り出し位置を指定しますが、オフセットを指定しないと画像分割になってしまうので、左上ピクセルを出したい場合でもオフセットを指定します。 -filter point は縮小時の補間フィルタを無効にし、-resizeでサイズを縦横半分にしています。 これで希望のピクセルだけ抜き出せます。

 通常、ImageMagickは出力ファイル名の拡張子から出力フォーマットを判別しますが、今回は標準出力を指定するので、-format pgm で出力をPGMにすることを指定しておきます。 次の - は入力が標準入力であることを、最後の - は出力が標準出力であることを示しています。

 希望のピクセルだけを抜き出したら、pamsummで最大値・最小値を調べます。 pamsummはNetpbmに入っています。 この3つのコマンドをパイプでつないでいます。 Windowsだとバイナリデータをパイプで渡すというのはあまりやらないかも知れませんが、Unixでは普通に行われます。 Cygwin上でも大丈夫です。

 最小130・最大435と出ました。 α700の場合、-Dで出力される値は4095が最大、つまり、12ビットデータらしいので、ちょっと露出アンダーということです。 それでも明暗差は306階調ありますから、なんとかなるでしょう。 この最大値・最小値を使って、

$ dcraw -d -4 -k 116 -S 435 -H 1 -c DSC03812.ARW | \
> convert -crop 4271x2847+0+0 -filter point -resize 50% - DSC03812.bmp

 -kは黒レベルの指定です。 -Sは飽和レベルの指定で、いっしょに-H 1 を指定しておかないとうまく動きません。

 飽和はしなくなりましたが、今度は追い込みが甘いですね。 黒レベルと飽和レベルを調整して、-4をはずしてデフォルトのガンマをかけた結果がこれ。

dcraw -d -k 135 -S 300 -H 1

 ヒストグラム的にはまぁまぁでしょう。 dot by dotで見ると少しピンボケです。 確かLPS-V4だけでピントを合わせて、SC-64をかぶせただけだと思うのだけど。 色収差なのか、あるいはまさかSC-64のフィルタの厚みでピントが移動した??

結論

 4倍(+2段)〜8倍(+3段)の露出かければ656nmも写る。 ただし、後処理を工夫しないとポヤポヤ。

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